上のブログ、2018年の夏なんですね。懐かしいです。
続きを書こうかこうと思って、3年弱もほったらかしてました(笑)
転調の説明は前回やってますんで省かせていただきますが、
昔からわたしは、転調とフーガが大好きなんですよね。
もちろん、転調しない曲もフーガがない曲も大好きなんですけども。
で、ネタは無尽蔵にあるわけです。
転調というテーマだけだったら、シリーズで書ける自信もあります。
というわけで、やや専門的になってしまいますが、
ちょっと好きな曲のお話をしたいな、と思います。
以前、薬師丸ひろ子さんの「あなたを・もっと・知りたくて」という歌について、
ちょこっとだけ解説みたいなものを書かせていただきました。
もともと薬師丸ひろ子さんの歌は大好きなんですよ。
「セーラー服と機関銃(夢の途中)」からだいたい聞いてますし。
で、個人的に彼女の歌の中で衝撃を受けたものの一つが、
映画「Wの悲劇」の主題歌である「Woman~Wの悲劇より~」でした。
時の河を渡る船にオールはない 流されてく
サビのこの歌詞に衝撃を受けました。
リリースされた1984年当時ではなく、だいぶときが経ってからなんですけど。
テレビの歌番組で放送していたものを、
テレビのスピーカーにラジカセのマイク部分を強引に近づけて、
それを録音して繰り返し聞いていたんだそうです。
あまり覚えてないんですけど(笑)
作詞を手掛けたのは松本隆さん。
前述のブログでも名前を書かせていただきました。
作曲は呉田軽穂(くれだかるほ)という名前でクレジットされていますが、
その正体は、松任谷由実さんその人です。
たぶん、この曲についての分析というのは、
それこそWEBなどで検索したらあまた登場すると思います。
Youtubeとかでもカバーされている方もたくさんいらっしゃいますし、
懐かしい音源をそのままUPしている不届き者もいます。
なので、何番煎じになるのかはわかりませんけど、でも、やりたいのでやります。
この曲のキーワードはいろいろとあるんですが、
「ナインス」というのがその中の一つになるかと思います。
ナインスというのはNinthと書きます。「9番目」という意味ですね。
上の鍵盤を見てください。
赤丸で印をしたのは「ド」の音になります。
ここから3度上のミ(3)、そして赤丸から5度上のソ(5)、
この3つの音を同時に鳴らすとドミソの和音「C」となります。
(補足)
音程の度数と呼ばれるものは、元となる音を「1度」として考えます。
なので、ドとド(同じ音)は1度の音程となります。
そしてひとつ上の音であるレとドは音程が2度の音程。
ミならば3度、ファならば4度ということになります。
増●度とか減▲度とか完全■度とかいろいろと付くことが多いですけど、
ま、そういうもんだということで。
基本の音から3度と5度を同時に鳴らすと基本の和音になり、
それにさらに音を追加することもあります。
たとえばセブンスと呼ばれる音です。
上の鍵盤で言うと7で書いてるところになります。
基本となる音から7度上の音、上の鍵盤では「シ」の音ですね。
ドミソシの4つの音が同時になると、
「CM7」(シーメジャーセブンス)という和音が出来上がります。
まあ、CM7のようなセブンスコードと呼ばれる和音でも、
いろいろな種類があるんですけど、その話は語ると長くなるので、
和音のお話をいずれ詳しく語るときに譲ります。
長くなりましたが(笑)。
ナインスのお話です。9番目の音ですね。
また上の鍵盤を見ていただきたいんですが、
赤い字で9と書かれているところが9度の音です。
と、ここで勘のいい方ならおわかりかと思いますけど、
この9番目の音は「レ」です。
これって、赤字の2の音と同じ音なんですよね。オクターブ上ですけど。
この話も語ると長くなるんですけど、
和音の世界では3度、5度、7度と付加された音にさらに音を追加する場合、
オクターブ上につけられるというルールみたいなものがあるんですよ。
だから、2度、4度、6度の音を追加する場合は、
そこからオクターブ上、つまり7度を足して、
2度→9度、4度→11度、6度→13度、という表記になります。
こうした7度より上の追加された和音をテンションコードと呼ぶことがあります。
ジャズの世界ではよく使われるんですけど、その話も別の機会に。
細かく言うとAdd9とただの(9)でも意味合いが変わってくるわけですけど、
そのあたりの話を始めると、テンションコードの話を全部やらないといけないので。
ちなみに、ドミソシレという5音を鳴らすと、CM7(9)という和音になります。
で、ようやく「Woman~Wの悲劇より」に話が戻りますが、
サビの部分のメロディがほぼこの9度や13度の音で構成されているんですね。
この曲は最初ハ短調で進行していきます。
Aメロにもナインスコードは登場するわけですけど、
この独特の浮遊感というのはやはり良いんですよね。
なので、調べればわかりますがナインスコードを効果的に使っている曲は本当にたくさんあります。
Aメロの「そばにいて~」の直後になる和音は「B♭add9」ですね。
ベースはB♭なんですが、「て」の部分の音はドになってます。
シの♭の音から数えて9番目の音が「ド」ってことですね。
このAメロのコード進行もすごく良くて語りたいんですけど、
今回は転調がテーマなので、少し飛ばします。
サビ前、「強がってもふるえるのよ 声が」の部分のコードです。
E♭/B♭ Am7-5 D7 Gm7 A♭M7/B♭
薬師丸ひろ子さんの伸びのある声で「声が~」と伸びた音、
これは「B♭」です。
その音を起点にして華麗に転調が行われます。
このサビ前のコードは何度もピアノで弾いてました。そのくらい好きです。
サビの調は変イ長調ですね。
B♭m7(9) B♭m7/E♭ A♭M7(9) Fm7(11)
「ああ 時の河を渡る船にオールはない 流されてく」の部分です。
このフレーズなんですが、
前半のメロディの大半が「ド」、そして後半のそれは「シ♭」です。
前述のコードの前半2つのベースは「シ♭」と「ミ♭」。
メロディのドは、そのベースからそれぞれ9度、13度の関係です。
コード後半の2つのベースは「ラ♭」と「ファ」。
メロディのシ♭は、そのベースからそれぞれ9度、11度の関係となってます。
つまりはサビのメロディが9度、11度、13度という音で構成されているわけです。
後年、松任谷由実さんがこの曲をして「大傑作」と言わしめたのは、
もちろん曲自体の完成度も素晴らしいわけですけど、
こうした技巧が施されているところにも表れているのかもしれませんね。
なんだか興奮して書いてしまいました。
なんのこっちゃ、と思った方も多いでしょうけど、
曲がとても素晴らしいので、是非一聴のほどを。
私もこれから聞きます。