田中公平さんという作曲家は、私にとっては特別な存在です。
物心つく前からそのBGMに耳を傾けていたわけですから。
最初に聴いたのはCM「布亀の救急箱」だったと思います。
あの覚えやすいメロディが実は公平先生の作品であると知ったのはずいぶん後になってからでした。
その後ドラゴンボールのOPのアレンジ、夢の星のボタンノーズ、コンポラキッド、
といったアニメの劇伴を担当され、OVA「トップをねらえ!」で時の人となります。
その後の活躍は周知の通り、アニメやゲームを中心に今でも第一線で活躍されています。
そんな公平先生が文化放送でイベントをやる、と知ったのはご本人のブログからでした。
文化放送内のホールでアニソンについて講義をする、というその情報に私は見事に食いつきました。
---以下、公式HPから抜粋---
【A&Gアカデミー特別イベント】アニソンメソッド~田中公平の音楽“導”~
日時:2014年7月20日(日)
12:30開場 13:00開演 15:00終演
出演者: 講師 :田中公平
ゲスト:菅野祐悟
【内容】 田中公平氏による公開講義、
会場のアカデミー生・一般の方からの質疑応答、
ゲストとの対談、そして実際にピアノを演奏してのミニライブ。
---抜粋おわり---
文化放送の2階ロビーについたのが開場時間の10分前。
すでに幾人か集合していました。
そこに合流し私が発した第一声が、
「この集まりって、アレのアレ、ですよね?」
田中公平さんの講義に参加される方々ですよね、という意味合いだったのですが、
これでどうやら通じたみたいでした(笑)
そして開場時間になり、知人とも合流していよいよイベント会場へ。
6列各10人程度のイスがすでに用意されており、前3列はA&Gアカデミー生がすでに着座済み、
我々一般参加者は後方で講義を拝聴するようでした。
ま、A&Gアカデミーの講義ですからね(^^;)
舞台中央にはピアノが。
そしてその前にはテーブルとそれを挟むように正面を向いたイスが2つ。
さらに少し右にさらにもう一つのイスが。これはおそらく司会進行の人のイスでしょうね。
あと、さらにその奥に二つ並んでイスが。
これはピアノ演奏の際に司会者と登壇者一名が座るためのイスでしょう。
(ま、全部見終わった後だからわかるんですけど・・・)
しばらく待機時間が続き、係の人からの諸注意があり、いよいよイベントが開始。
アニメチックアナウンサーである長谷川のび太さんが登壇されました。
私の中でのび太さんといえば「ノンコとのび太のアニメスクランブル(アニスク)」でした。
昔ラジオばっかり聴いていた頃があってその時にこのアニスクもずっと聞いていました。
ま、いうなれば私のアニメ黄金時代の一翼を担うアナウンサーでもあったわけです。
(ちなみにもう一人はラジオ関西の元アナウンサーである岩崎和夫さんでした)
そんなのび太さんが目の前でしゃべっていることにちょっと嬉しくなりました。
自分が学生時代に聞いてたラジオの人が今目の前にいると思うと何とも言えない気分になったんです。
しかしそんな気持ちも、
このイベントの主役である公平先生が登壇されるや霧消してしまいました(笑)
最初は公平先生の生い立ちから音楽のルーツを探るというもの。
長谷川のび太さんが進行役となり、公平先生がそれに受け答えするという形で進んでいきました。
公平先生好きならばだいたい知ってたことばかりだったんですが、
中学時代に大阪で開催された「バイロイト・ワーグナーフェスティバル」に参加されたくだりが印象に残ってます。
この時代にバイオリン協奏曲を書いてたという神童ぶりを発揮していた公平少年。
中学生というのに当時8000円という大金を払って見に行ったというバイロイト音楽祭は、
かなり強烈に公平少年の心に音楽を植え付けたのではないか、と思いました。
私もその時代からクラシックは聴いていましたが、
これほど大規模なフェスに行こうとは思っていませんでしたから、持って生まれた才なのでしょう。
その後音楽を志し東京芸術大学作曲家に入学、
その後卒業してビクター音楽産業に3年間勤務。
その時にサザンオールスターズの譜面書きをした事などを披露して観客を驚かせていました。
私も知らなかったので「へぇ」とトリビアボタンを心の中で連打してましたね(笑)
そうしてサラリーマン生活をしていた公平先生、
再び音楽を志すことになったのは父親の死がきっかけだったそうです。
「作曲家になるなら日本一になれ」と言われた公平青年がそれに「はい」と応えたのだそう。
そうして亡くなった父親に報いる意味もこめて、
さび付いた感性を取り戻す、そして公平さんが苦手だった「ジャズ」を勉強するために、
アメリカにあるバークリー音楽院に留学をすることになったのは有名なお話です。
ここまでのお話を、冗談を大量に交えながら話される公平先生。
やっぱりトークが本当に上手い。そしてわかりやすい。
そして話は作曲家全体の話になります。
作曲家は「芸術」を目指す。そしてオファーする人たちは「売れるもの(結果)」を求める。
その「芸術」と「売れる物」のバランス感覚が大事だ、と公平さんは語ります。
どちらか一方に偏ってしまうとそれは「二番煎じ」「前に作った曲の焼き直し」と思われてしまうのだそう。
「売れる物」を作る場合でも「芸術」という側面を忘れてはならない、
きちんと自分を表現できる箇所をアピールすることも大事、だと仰いました。
具体的な例をあげると、ジョジョの奇妙な冒険の第一部の主題歌を公平先生がプレゼンした際、
テレビサイズの主題歌でラストの「ジョーーーーーージョ!」と歌うところがあるのですが、
そこの長さをCD収録サイズの半分にした、というのです。
その長さでも十分にインパクトがあるのにCDではさらにそれが倍の長さになっている、
これはきっとこの主題歌CDを買う人も度肝を抜かれるはずですよ、とプロデューサーに言ったそうです。
つまり「売れる物」をきちんと相手に納得しながら自分の「芸術性」をアピールした、というわけです。
うーん、これは文章だとかなり伝わりにくい・・・(笑)
そして瞬く間に時は過ぎ、ゲストの登場となります。
若手の作曲家の代表であり、
大河ドラマ「軍師官兵衛」の音楽も手がけられている菅野祐悟さんの登場です。
ピアノの前のイス、向かって左側に公平先生、右側に菅野祐悟さんが座られて、
今度は菅野さんの音楽のルーツを伺うこととなります。
父親がオーディオマニアで母親がクラシックギターの奏者、という恵まれた環境(と公平さんが言ってたw)
で育った菅野少年。
きっかけとなったのはそのオーディオマニアである父親が、
スピーカーの調整のためにあえてそのCDを変えずに聴き続けていたというキース・ジャレットだそう。
まあ、メモ取りながら聞けば良かったんですが、
めんどくさくてメモを取らずに記憶を頼りにここまで語ってきました。
なので、記憶がかなり曖昧です(笑)
これまでのお話にもかなり有用なものがあったはずなのですが・・・
これ以上細かく語るとぼろが出そうなので、かいつまんで語ります。
まず、オファーの話。
大河ドラマを担当するきっかけとなったお話から、さらに話が膨らんでオファーの話になりました。
「どんな小さな仕事でも120%の力でやる。するとその印象がずっと残ってて『次もお願いします』となる」
と仰ったのは公平先生でした。
一つの良い物を作ることで業界全体に喧伝するという方法も有効ではあるとのことでしたが、
最初にやった仕事を精一杯やるとそこで担当者の印象に強く残るから次につながりやすい、とのこと。
そして、オケの話。
大河ドラマで菅野さんはワルシャワフィルの演奏を強く希望したそうです。
その理由が・・・・うーん、ここでは書かないことにしましょうか。
聞きたい方は私に直接「聞きたい!」と仰って頂けると話します。
もったいぶってるわけではなく、単純に「公には書きにくい」だけです(笑)
あ、そういえばここで公平先生から面白い話が披露されました。
ウィーンフィルのお話です。
ウィーンフィルのバイオリニストが一人抜けるとき、使っていたバイオリンを置いていくのだそうです。
で、その楽器を演奏する人を「オーディション」で決めるとか。
つまり「楽器自体は変わらないのだからオケの音色にはそれほど変化が生じない」
つまり「伝統のオケの音色が持続されていく」のだそうです。
ここでも私のトリビアボタンが心の中で連打されました。
ま、ほかにもいろいろとあったんですが割愛して。
菅野祐悟さんの演奏コーナーがはじまりました。
最初に演奏されたのは「軍師官兵衛」のメインテーマ。
演奏前に公平先生が、
「このメインテーマは3拍子なんです。3拍子の曲というのは管楽器で盛り上げるのがとても難しい。しかし菅野くんはうまくそれをクリアして盛り上がる曲を作った。あと、なんでこんな調性で曲を作ったんや(笑)」
ときちんとオチを付けてこの曲をべた褒めしておりました。
菅野祐悟さんの生演奏は初めてだったんですが、メインテーマは何十回も聞いてるので覚えてました。
お人柄の出たようなとても優しいタッチのピアノで心洗われました。
少し緊張されていたのか、指が震えているのが後ろからも見えました。そりゃ緊張しますよね。
そして次は、「お題をもらって即興で演奏してもらおう」というコーナー。
最初は司会進行の長谷川のび太さんからのお題。
箇条書きにするとこういうお題でした。
・季節は冬、場所はイルミネーション輝く銀座の街
・銀座の街中でケンカを始める二人、と「しかたないな」と言いながら中谷さんを抱きしめる岡田さん。
・ハッピーエンド
なるほど、のび太さんの妄想力全開のお題でしたが、
菅野さんはそのお題を聞くやいなや立ち上がりピアノの前に。
時間にしてほんの数秒の事だったと思います。
そして演奏された楽曲は、
「冬の銀座の町並み→不穏な音色で言い争いを表現→最後はハッピーエンド」
という流れを一分強ほどの曲に見事まとめられていました。客席からは大きな拍手。
で、それに刺激されたのか公平先生が、
「最初の冬の町並みの様子のメロディ、実写だとああだったけどアニメだったらこんな感じ」
と張り合うかのようにピアノの前に向かって演奏されました。
その楽曲はさっきの菅野さんの楽曲をうまく昇華しながら多少展開が上下する楽曲に。
こちらも素晴らしい曲でした!!
次はお客さんからのお題に応えて菅野さんが即興演奏することに。
お題は「今の客席(自分たち)のことを曲にして欲しい」とのこと。
わくわくしながら浜松町駅を降りて文化放送2階のロビーについて、
エレベーターで12階へ。そしてホールに到着してこうしてお二人のお話を聞いている、
というこの我々観客のシチュエーションを曲にして欲しい、というものでした。
そして、おもむろに立ち上がったのはなぜか公平先生。
その即興演奏で披露された楽曲は、
軽やかなメロディなのにどこか煩雑で、でもどこかウキウキする、そんな曲でした。
モチーフを短くすることでワクワク感が倍加されたように感じました。
これも本当に素晴らしかったので是非CDにして頂きたいと思いました(笑)
そして質疑応答の時間となりました。
いろいろと面白い質問もあったのですが、これは当日客席にいた皆さんの共有ということなので
ここでは触れないでおきましょう。
10分間の休憩後、後半は田中公平さんのミニライブ。
ピアノの弾き語りで5曲演奏されました。
1.「ウィーゴー」 from ワンピース新世界編OP
2.「ジョジョ〜その血の運命〜」 from ジョジョの奇妙な冒険OP
3.「海導」 from ワンピース FILM Z
4.「つばさ」 from サクラ大戦
5.「ウィーアー!」 from ワンピース初代OP
ま、いろいろと語りたいことが多すぎて困るのですが(笑)
やはりここでは「つばさ」に触れておきましょうか。
以前のブログ記事でも触れましたが、
私の中でこの「つばさ」という曲のしめるウェイトはかなり重いです。
心の病と闘っていた時に繰り返し聞いていた曲でもありましたし、
何より大好きな「サクラ大戦」の楽曲であったこともあったと思います。
私はこの「つばさ」を聞くとほとんど条件反射的に涙を流してしまいます。
辛かった闘病時代、職にありつけずに路頭に迷っていた私にとって、
この田中公平さんの弾き語りVerの「つばさ」はまさに究極の楽曲、とも言えるものだったんです。
もちろんワンピースの楽曲も素晴らしかったし、
ジョジョの楽曲では一緒に「ジョ~~~~ジョ!」って叫んだりもしました(笑)
最後の「ウィーアー」でラストのフレーズを繰り返しやるというネタは、
4月のブラスバンドによるコンサートの時にもやられてましたね。あのときよりは淡泊に終わりましたが。
※7/25追記
実はさっきとあるニコ生のタイムシフトを見ていたんですけど、
公平先生が2部のミニライブ前にトイレに行って派手に転び、
備え付けの金属製のゴミ箱に手を強打したということを知りました。
ニコ生当日まで関係者に一切明かさなかったそうですが、
聞いていた我々も全く気づきませんでした。
これが「プロ」って言うことなのでしょうか。いや、公平先生は作曲家だし・・・(笑)
ニコ生で右腕にシップのようなものを貼り付けながら登場してたので驚きました。
大事なくて本当に良かった・・・
というわけで、これだけ濃い内容で行われたアカデミー。
気になったことが一つだけありました。
一般参加者の中で熱心な公平さんのファンがいらっしゃったんです。
ま、それは私もその中の一人ではあったので全然問題ないんですが、
その中の女性の方が「心の声をそのまま声に出してしまう」人だったんですね(笑)
普通であれば「うんうん」とか「なるほど」とか「ほぉ」といった言葉って、
聴講中はあまり口には出さずに心の中でつぶやくべきものだと思うのですが、
その方はその心の声をすべて口に出してらっしゃいました。
ま、普段行くライブやコンサートでの「目に余る行為」に比べたら全然かわいいものだったのですが、
シーンとした講義の中でその声がやけに響いて聞こえてきたのは事実です。
とまあそういうこともありましたけれども、
全体を通してみるとかなり貴重な時間を過ごすことが出来たのではないかな、と思います。
かなり近い距離で田中公平さん、菅野祐悟さんを見られたことも貴重ですし、
普段ラジオなどでは決して聴くことができない「激レア」な話も聞くことが出来ましたし。
(ここには書けないこともいっぱいあるんです・・・w)
公平さんの「デモテープを聴く会」も実は参加してたんですが、
その時もかなり貴重なお話を聞けたので、
こういう劇伴作家さんと直接ふれあえる機会がもっと増えたら良いのにと思いました。