音楽つれづれ日記

音楽好き、飽き性、そして中庸思考。

tempo giusto

テンポ・ジューストと読みます。イタリア語です。

意訳すると「正確な早さ(テンポ)で」という感じですね。

安定時の脈拍のテンポくらい、っていう意味もありますね。


この前ドラゴンクエストのコンサートに行ってきたんです。

ドラクエ8の音楽をオーケストラで聴けるということもあり、

またこの前日に、3DS版でリメイクされたものが発売されたこともあって、

ドラクエファンでいっぱいになったとても素晴らしい演奏会でした。

そんな演奏会が終わってTwitterなんかで感想が呟かれていたのですが、

そんななかで多く散見された意見があったんです。


「全体的にちょっとテンポがはやかった」というものでした。


ゲーム音楽を演奏する場合にテンポを気にされる方が結構多いんです。

それはゲームをしながら刷り込まれた音楽に起因すると思うんですが、

頭のなかでそのゲームのプレイ動画を再生しているわけです。

その脳内再生されている音楽と少しでも違っていると違和感を覚えます。


あ、いや、私は覚えないんですけど(笑)


ゲーム音楽好きな方は割と音色やテンポが違うと、

得も言われぬ違和感を覚える傾向が強いように思います。



NESBANDさんを例にあげるのは気が引けるのですが^^;


NESBANDさんのことはこのブログでもたびたび記事にさせて頂いてます。

要約すると「ファミコンの音色で演奏するバンド」です。

30代以降のファミコン全盛期を幼少時に迎えた世代は、

ファミコンのある種レトロな音色に心酔する人が多くて、

私もその世代にどっぷりと入っていることもあり、

NESBANDさんの演奏にはとても共感を覚えるんですね。


しかしながら、その世代とはかけ離れている人、

要するにファミコン世代ではない人たちがこの音色を聞くと、

それはチープで奥行きのない音、として認識する人が多いようです。


どちらが良い悪い、という話ではなく、

世代ギャップという意味合いが強いのではないでしょうか。

幼少期にゲームをプレイしていた人は数多いと思うんですけど、

その経験がファミコンなのかスーパーファミコンなのか、

NINTENDO64なのかGAMECUBEなのか、

ゲームボーイなのかバーチャルボーイなのか、

任天堂のハードのみ提示しているのは故意ですw)

その経験によって音色に対する反応は様々なのだろうと推察します。


もちろん若い世代でもレトロな音色に魅せられる人も多くいますし、

古い世代でも新しいゲーム音楽をたくさん聴いてる人もいらっしゃいますから、

一概に「これだ」と言えないのが辛いところなんですけど(笑)


しかし子供時代に経験したことって深く根付いているんだろうな、とは思います。



あ、話が大きく逸れちゃいましたね。

戻します。



NESBANDさんの演奏動画を見ているとちょくちょくこんなコメントが見られます。

「テンポがもう少し遅かったら完璧なのに」

「はやすぎる」

こうした演奏速度に関するコメントですね。

先程も書きましたけど、

ファミコン世代の人たちは脳内に音楽が刷り込まれている人が多くて、

そのテンポを大きく逸脱すると、その演奏に対して反感さえ覚えるようです。


最初の話に戻るんですが、

ドラクエのコンサートでテンポを早く感じたのは、

きっとゲームプレイをしていたときに聴いていた曲、

もしくはCDなどで演奏を聴いていた人なのでしょうね。

その「記憶にあるテンポ」と違うと、少し違和感を感じるわけです。


私も少し早く感じたのですが、それでも演奏は素晴らしかったと思いました。

体調面とか、曲数が多くて時間調整という意味で、

故意にテンポを上げたのかな、と勝手に推測しています。


以前ベートーヴェン交響曲全曲演奏会でも同じようなことがありました。

晦日に行われて、終了時刻が決まっていたこともあり、

繰り返し演奏されるところも省略してましたし、

演奏自体も比較的テンポも速めだったと記憶しています。


吹奏楽で有名な「アルヴァマー序曲」という曲があります。

バーンズの作品でも人気の楽曲なのですが、この曲もかなり速度の違う演奏が多く見られます。

全般に速度がかなり速いんですね。

楽譜にはAllegro Vivoと書かれています。速度でいうとだいたい132あたりでしょうか。

しかしこの速度で演奏されている動画を見ると「遅い」というコメントが多いんです(笑)

作曲者自身が指定したテンポであるにもかかわらず、です。


クラシックの演奏でもかなり演奏速度の違うものが多くあって、

その辺りは指揮者が「作曲者の書いた譜面をどのように解釈したか」にかかっています。

20分かからずに終わってしまう「運命」もありますし、

長大な曲が多いことで知られるブルックナーの曲でも、指揮者によって総演奏時間がバラバラです。

ただ、クラシック音楽の場合はそれぞれの解釈ということもあり、

割と速度については寛容な人が多いように思います(笑)


思うに「その曲を初めて聞く時」っていうのが重要な気がするんです。

クラシック音楽のある曲を最初に聞いた時、それが脳内に取り込まれて、

それがその人にとってのスタンダードになるんです。

それがジャズであれロックであれカバーソングであれ、

その初めての体験がそのままその人の基準になってしまい、

その基準とは異なる演奏を聞くと人はある種の違和感を覚えるんだと思います。


ゲーム音楽もきっとそうなのでしょうね。

その人の頭の中のある基準がすでに確立していて、

その基準から大きくそれてしまうと少し違うと感じるんでしょう。

もちろんその基準を大きく凌駕する演奏を聞くと、

その基準に上書きされて、その基準値が大きく跳ね上がることもありますけどね。

このブログでも触れたことのあるピアニストのベンヤミンの演奏は、

まさにその『基準値を大きく跳ね上げる演奏』だったように思います。



tempo giusto(正確な速さで)。

その速さはきっとそれぞれの人の頭のなかに存在する、

唯一無二のものなのでしょうね。