音楽つれづれ日記

音楽好き、飽き性、そして中庸思考。

むかしがたり 3

 「むかしがたり」三回目となります。

(過去記事はこちらからどうぞ)

hw480401.hatenablog.com

 

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前回、中学校一年生あたりまでのお話をさせていただきました。

 

学年が上がって中学二年生になり、

相も変わらず自分のない中学生活を続けていました。

家に帰ってジャズを聴くこと、趣味のゲームをプレイすることで、

糊口をしのいでいたともいえるかもしれません。

 

学校の授業はちゃんときき、部活もそれなりにいそしんで、

家に帰って趣味の時間を味わう生活が馴染みだして1年ほどが経った、

中学二年生のある日のことです。

 

その日は午前中だけ授業があり、部活もなかったので、

近所の図書館へ行き、勉強しようと思って駅の方角へと向かいました。

その道すがら、なじみの駄菓子屋さんがあったので、

何か買おうと思って入店すると、部活の先輩がたむろしていました。

当然のごとく目を付けられてからかわれることになります。

何も言い返すこともなくへらへらと笑い続けることが本当に苦痛でした。

少しでも反抗的な態度をとろうものなら、手や足が飛んでくるので、

その場をしのぐため、ずっとへらへらしつづけたんです。

何も言い返さないことに飽きたのか、

先輩たちはからかいの声を上げながら店をあとにしました。

 

「あんた、なんなん?」

女性にしては少し低めの声が聞こえたのはそんなときでした。

「それでも男なん?気持ち悪い笑顔ばっかりして」

容赦ないその言い回しに当然気分を害された私でしたが、

当時も今も女性には奥手で有名だったので、

ちらりとその女性を一瞥してその場を立ち去ろうとしました。

 

よく見るとその女性は私の通う中学校の制服を着ていたんです。

襟章の色が私と同じ色だったので、おそらくは同じ学年です。

ちらりと見てそこまで判断した私でしたが、

特に興味をそそられることなくその場をあとにしました。

 

 

それからしばらくはなんの代わり映えもしない日々が続きました。

朝練→授業→部活→帰宅→ジャズ。

そんなサイクルがしばらく続きました。

 

夕方の部活が終わって着替えている時、

音楽室の方からピアノの音色が聞こえてきました。

すでに夜7時をまわり、ほかの部活の連中はすでに帰宅しているはずです。

音楽教師が何か弾いてるんだろうと思ったんですけど、

そのピアノがクラシックとか童謡ではなく、私の好きなジャズでした。

さすがに音楽教師が演奏してるわけないと思いながらも、

着替えを終えた私は、音楽室の方へと歩みを進めます。

 

ここで、ピアノを演奏しているのが前述の女子生徒なら、

ドラマ的な展開なんですけど、そうではないんです(笑)

弾いていたのは一人の男子生徒らしき人でした。

らしき人、と書いているのは、その男子が制服を着てなかったからです。

 

「ピアノ弾きたいの?」

その男子は私にそう尋ねてきました。

流ちょうな日本語でしたけど、どう見ても白人男子です。

 

なぜここにいるのか、そしてそもそも誰なのか、

そんなことを意にも介さない感じで、その男子はもう一度尋ねてきます。

「ピアノ弾きたいの?」と。

 

ピアノはもうだいぶ前にやめたんだ、なんて言葉をはくことなく、

私はただ単に首を左右に軽く振るだけでした。

それで気が済んだのか、その男子はまたピアノに向かい演奏を始めます。

その曲は、映画「カサブランカ」でも使われた、

ジャズのスタンダードナンバー「As Time Goes By」でした。

 

とにかく、その演奏に驚きました。

 

私とそれほど変わらない年恰好なのに、

このジャズの名曲を抒情たっぷりに演奏してのけるスキルは、

たぶん今聞いても驚嘆していただろう、というくらい素晴らしいものでした。

その素敵な演奏で、気が付くと私は音楽室の片隅で涙を流してました。

大好きなジャズを学校の音楽室で聞けたことの喜びで、

その男子のいきさつやら何やらがすべて吹き飛んでいました。

 

で、何を思ったのかその時、私はこう彼に英語で話しかけました。

「Will you be my friend?」(友達になってくれない?)と。

涙を流しながら笑顔でそう尋ねた私を、奇異な感じで眺めながら、

彼はでも、深くうなずいてくれたんです。

 

 

 

 

そんな彼と四半世紀以上過ぎた今でも仲良くさせてもらっているわけですから、

人生って何が起こるかわかりません。

 

このブログをずっと読んでもらっている方なら察しが付くと思いますが、

この男子こそ私の友人であり、

今現在もボストンでジャズピアニストして活躍している、

私が「世界一ピアノが上手い」と思っている、例の彼のことです。

そして、その奥さんが前述の女子生徒、というわけです。

日本のサブカルチャーが大好きな彼は、

ちょくちょく日本に遊びに来ていたらしいんですけど、

この時は日本のピアノの先生のところにお邪魔していたらしいです。

そのピアノの先生は、私が通っていたピアノ教室の先生、ではなく(笑)、

前述の彼女が通っていたピアノ教室の先生らしいんです。

その教室で知り合いになって意気投合した彼が、

興味本位で彼女の通う学校へ行ってみたいと言い出し、連れてきた、

というのが事の真相でした。

 

まあ、そんな後日談はともかく。

話を中学2年生の頃へと戻しましょう。

 

 

 

その音楽室で、彼がジャズを演奏し、

その代わりに私がアニメの主題歌を演奏して、

「ああ、この曲知ってる!」って手をたたいて彼が喜んでくれたり、

たぶん時間にすると30分もなかったんでしょうけど、

その音楽室でのピアノによる【じゃれ合い】が本当に楽しかったんです。

 

ああ、ピアノってこんなに楽しいんだとようやくその時気づけたんです。

堅苦しい曲を演奏するのも練習だけど、

それよりもまず音楽は楽しいものだ、ということを再認識させてくれた、

同い年の彼に、今でも感謝しています。

 

そろそろ先生が注意しに来るであろう頃を見計らって、

私と彼は音楽室をあとにして、校門で待つ女子生徒のところへ向かいました。

彼と一緒にいるのが私だと知ったその女の子は、露骨に嫌な顔をしましたが、

彼がいろいろと冗談を交えながら説得してくれたことで、

仲間、とは言えないまでも、嫌な顔をすることは無くなりました。

 

この二人と出会ってから、俄然中学校が楽しいものとなりました。

もちろん、自分を殺し続ける日々は続いてるわけですけど、

ピアノという共通項を通じて知り合えた友達が出来たことは、

それからの学生生活の支えの一つとなったことは間違いありません。

 

 

(つづく)