音楽つれづれ日記

音楽好き、飽き性、そして中庸思考。

Piano & Trumpet Concert

最初に出会ったときの名前は「RIORU」さんでした。
気がつけば本名である「SAKI」さんで活動されていました。
どういう心境の変化があったのか、定かではありませんが、
そのSAKIさんから直々のお声がけもあり、
SAKIさんの参加されてる演奏会で「準レギュラー」となっている私としては、
というよりも、ベートーヴェンも近現代も大好きな私としては、
この魅力的なプログラムに惹かれないはずもなかったという次第で(笑)


林真由&林沙希 ピアノ&トランペットコンサート
2018年11月23日(金・祝)
開場12:45 開演13:00
Piano:林真由
Trumpet:林沙希
Piano(Guest):泉翔子
(以上、敬称略)

-Program-

Ewazen/トランペットソナタ
Gershwin/Someone to Watch Over Me
Dvorak/ユモレスク
Sibelius/樅の木
Debussy/月の光

休憩

Beethoven/Piano Sonata No.13 E-flat Major Op.27-1
Beethoven/Piano Sonata No.14 C-sharp Minor Op.27-2
Ravel/Kaddish (No.1) From "2 Mélodies hébraïques"
Debussy/亜麻色の髪の乙女
PIAFS/愛の讃歌
Kosma/枯葉

アンコールあり


今回ゲストで参加された泉さん、以前から存じ上げているピアニストさんです。
私の中では漢字の「泉」さんというより、
平仮名の「いずみ」さんという方が馴染み深いのでこちらで通させていただきますね。
すいません。
いずみさんのピアノ、好きなんですよ。
前々回書いた「幻想水滸伝II」のときにもシンセ奏者として参加されてたりして、
私の中では「ゲーム音楽の鍵盤奏者」という印象が強かったんですね。
RIORUさんと名乗られてた頃にSAKIさんと出会ったきっかけも、
実はいずみさんの参加された秋葉原のライブハウスでのことでした。
ピアノ・デュオで演奏されたゲーム音楽に感動したのがいつのことか忘れましたが、
そのライブの帰り際に某場所で出会ったのが、
SAKIさんとの最初の出会いだったと記憶しております。

いずみさんの力強い打鍵と、
SAKIさんの丁寧なトランペットの音色がどういう化学反応を及ぼすのか。
最初の演奏曲目であるエワイゼンのトランペットソナタで、
私は度肝を抜かれることになりました。


1.エリック・エワイゼン「トランペットソナタ

 I. Lento - Allegro moderato
II. Allegretto
III. Allegro con fuoco

アメリカの現代作曲家エワイゼンの作による、

3楽章構成のピアノとトランペットのための楽曲です。
幻想的というよりも、映像的な印象のある彼の曲ですが、
難易度は高い、という印象を私自身は持っています。
なので、決まったときは最高に気持のいい楽曲とも言えるわけですが、
プログラムの最初にこれを持ってきたのが、なかなかにSAKIさんらしいというか(笑)
 
短い序奏から始まり、快活に進んでいく第一楽章。
メランコリックな雰囲気が続く、私も大好きな第二楽章。
そして速度指示で「炎のように熱烈に」と書かれた第三楽章。
20分強の難曲が、あっという間に終わってしまった感覚がありました。
この曲、音のバランスが難しいんですよね。
トランペットの音の圧に、ピアノの音色がかき消されることもあります。
が、いずみさんの力強い打鍵とテクニックもあいまって、
とてもバランスの良い音色を響かせてたように私は思いました。
私が大好きな楽曲であるという贔屓目もあるかもですけど(笑)
 
ちなみに、私はエウェイゼン、エワイゼンと発音することが多いんですが、
公式ではエワーゼンとかエワゼンと表記されてるみたいですね。
ブログでは「エワイゼン」と書かせていただきました。
 
 
ここで、いずみさんは一度舞台から退場されて、
SAKIさんの実姉でもある真由さんが登場されました。
二人で演奏されたのが、ガーシュインの名曲です。
 
 
2.ジョージ・ガーシュイン「Someone to Watch Over Me」
 
言い忘れていましたが、今回の演奏会場である南小岩バッハザールは、
約60人程度の小さなホールです。
客席と舞台がかなり近いので、奏者の表情までしっかりと感じることができます。
 
真由さんとは今回はじめてお会いしたんですが、
SAKIさんと似てる印象ですが、もっとほんわかした感じを受けました。
しかし、いざピアノの前に座るとその表情は一変します。
 
ガーシュインが自身のミュージカルのために書いたバラードですね。
ですが、単独でもスタンダードナンバーとして知られた名曲でもあります。
そんな曲をピアノとトランペット用にアレンジされてます。
バラードということで、フリューゲルホルンに持ち替えての演奏でしたが、
ジャズだとフリューゲルホルン、とっても合いますよね。
あの暖かい音色でそうされると、心地よい気持ちになります。
 
私はホール左側よりにいたので、ピアノの演奏がよく見えてたのですが、
真由さんのピアノがとても良かったんです。
いや、SAKIさんの演奏ももちろんすばらしかったんですけど・・・
トランペットに合わせて柔らかな音色で奏されるピアノが下支えになっていて、
それがとても気持ちよく耳に届いてくる、といった感じがしました。
 
 
ここでSAKIさんは舞台外へ。
真由さんのピアノリサイタルが始まります。
 
 
3.ドヴォルザーク「ユモレスク」
 
メロディがとても有名な曲ですね。
オーケストラでも、チェロでの演奏でもよく知られていますが、
ピアノ独奏版はたぶん今回はじめて聞かせていただいたように思います。
(学生時代に聞いたかもしれませんけど・・・)
 
この曲、中間部の切ないメロディが本当に大好きでして。
曲名どおりにユーモラスな印象のある主題に目が行ってしまいがちですが、
この曲の肝は、あの力強くも切ない中間部にこそあると私は思っています。
以前、指揮者の小林研一郎さんの演奏会で、
アンコールとして披露された「ユモレスク」を聞いたときに、
小林さんがそのような意図をおっしゃってたのをおぼえています。
 
ユーモアの中に隠された切ない気持ち、思いのようなものを感じ、
真由さんの情感あふれる演奏もあって、この曲を聞いてて胸が熱くなっていました。
 
 
4.シベリウス「樅の木」
 
「もみのき」です。
シベリウスの「5つの小品」の中の1曲ですね。
けだるいジャズのような音色にも聞こえますが、その音色はどこか寂しげです。
この曲、私も大好きな1曲でして、
「5つの小品」の中でもとりわけ有名なものとなってますね。
即興的な表現を問われる印象のあるこの曲ですが、
真由さんの演奏は、どちらかというと淡泊なものに感じられました。
必要以上に感情移入をしないで、俯瞰的に演奏されてるようにお見受けしました。
その演奏が、逆にこの曲のはかないイメージを倍加させてたように思います。
 
 
5.ドビュッシー「月の光」
 
ドビュッシーのピアノ独奏曲集「ベルガマスク組曲」の第3曲。
という説明も不要なほどに、よく知られた曲ですね。
フランス音楽もとても大好きなので、この選曲もとても嬉しかったです。
個人的には組曲全4曲聞いてみたかったです。
特に「前奏曲」と「パスピエ」は真由さんの演奏でぜひ聞いてみたいと思いました。
 
「月の光」。淡く輝く月光を感じさせる、少しはかなげなメロディは、
親しみやすさを感じると同時に、少し不可思議な印象も同時に与えます。
どこに進んでいるのかわからない迷子のような、とでもいうのか、
聞き手に「さすらい」を感じさせるような、そんな印象が昔からあります。
独特の響きをもつドビュッシーの曲の中でも、とりわけ有名であるがゆえに、
どういうアプローチで演奏されるのか楽しみだった1曲でしたが、
静寂をも利用してとても聴きごたえのある演奏となっていたように思いました。
 
 
そして、時刻を見ると13時40分でした。
「14時15分まで休憩となります」というアナウンスを聞いて、
え、そんな長く休憩なの!?と思ったのは私だけではなかったはずです(笑)
 
 
そして休憩が終わり登場したのは、
艶やかな赤いドレスから、シックな緑のドレスに着替えた真由さんでした。
ベートーヴェンのピアノ・ソナタをこれから2曲連続で演奏します。
 
 
 
ベートーヴェンは私の尊敬する作曲家の一人です。
最初にクラシックに触れたのが彼の交響曲第3番と6番でした。
それ以来所持してるCDの多くは彼の作品になってます。
そのくらい思い入れのある作曲家の作品であることもあり、
軽々に演奏の感想を書いていいものかどうか悩みます。
 
真由さんが演奏前に軽くMCをされてたのですが、
長い休憩の謝罪で一笑いあったあとで、
この2曲に取り組む覚悟のようなものが表情に垣間見えました。
「長い休憩と同じくらい長い演奏ですけれども」と謙遜めいたことを言われていましたが、その演奏は本当に圧巻の一言でした。
 
二曲ともに「幻想曲風ソナタ」と題され、
私も繰り返し何度も聞いたことのある曲ではあるのですが、
生でその演奏を見るとまたひと味もふた味も違った印象を受けます。
13番の一楽章、8ぶんの6拍子のAllegroに変わる瞬間の音色の変化は、
鳥肌が立つ感覚を久々に味わうことができました。
その感覚は14番のあの有名な出だしでも、3楽章のあの爆発的な曲調の中でも、
たしかに感じることができました。涙が出そうになるくらいに。
 
久々に生でベートーヴェンピアノソナタを聞けて本当に幸せでした。
 
 
ここで14番の最終楽章演奏中に真由さんに異変が。
しきりに目を気にする素振りを見せていたのです。
演奏中に感極まって涙が出たのか、と誰しもが思ったのですが、
演奏直後に真由さんが、
「汗が目に入って、右目をこうして避けてたんですけど今度は左目が・・・」
と言われて会場内はどっとわきました(笑)
 
このあと真由さんは一旦退場されて、
エワイゼンのトランペットソナタを演奏されたお二人が再び登壇。
SAKIさんも「泣いてるのかと思った」と言って笑いを誘っていました。
 
 
8.ラヴェル「カディッシュ」(2つのヘブライの歌より第1曲)
 
もともとは歌曲として作られた楽曲ですが、
作曲者自らが管弦楽へ編曲したものもあります。
が、今回はピアノとトランペット独奏用にアレンジされたものですね。
ヘブライ」という言葉どおり、少しエスニックなメロディが登場しますが、
静謐な雰囲気を保ったまま曲が進行していきます。
 
「カディッシュ」とはユダヤ教の祈りの歌を意味するのですが、
私がこの言葉を聞いて最初に思ったのは、
レナード・バーンスタイン交響曲第3番「カディッシュ」でした(笑)
いや、もちろんラヴェルのこの曲も知っていましたし、
フランス音楽好きな私としては大好物の曲の一つでもあったので嬉しかったですよ。
 
ピアノとトランペットという少し特殊な組み合わせの演奏で、
少し脳内が混乱をきたしたような気もしますけど、
それでも楽曲の持つ異質なものとあいまって、とてもいい演奏でした。
 
 
 
ドビュッシー前奏曲集第1巻全12曲の第8曲です。
以前、フランスのピアニストが来日したときに、
この前奏曲集を生で聞いたことがあるんですけど、ほんといい曲ですよね。
第10曲の「沈める寺」という曲が大好きで、いつも・・・
 
あ、「亜麻色の髪の乙女」のお話でしたね。
 
ドビュッシーの曲としては珍しく一貫した変ト長調の曲です。
優しいメロディと和音が特徴的な名曲ではありますが、
これをトランペットもくわえて演奏するというのがまたSAKIさんらしいというか。
メロディがピアノとトランペット交互に奏でられ、
その世界は徐々に広がっていく印象を持ちました。
こういう演奏もアリなんだな、と思わせてくれたのはすごいなぁと。
 
ピアノ独奏のあの包み込まれるような音色をトランペットで表現するのは、
とても難しいことである、とも思いましたが、弾ききっていましたね。
いずみさんのピアノも原曲を思わせる優美なものでとても良かったです。
 
 
 
シャンソン歌手として知られるエディット・ピアフ
その歌唱曲の中でもとりわけ有名なのがこの「愛の讃歌」です。
「ばら色の人生」も実は大好きな曲の一つですけど、それは関係ないですね(笑)
余談ですけど、この曲の作詞はエディット・ピアフ本人、
そして作曲はマルグリット・モノー
当時作編曲家として活躍していた女性作曲家ですね。
 
ピアノは真由さん、トランペットはSAKIさん。
そして鍵盤ハーモニカ(メロディオン)を手にしたいずみさん。
いずみさんがメロディオンを手にした瞬間に、
私なんかはいずみさんのSNSのアイコンを想起してしまいそうになりますが。
 
この三重奏が素晴らしかったんです!!
 
ピアノとトランペットという取り合わせをずっと聞いてきたので、
鍵盤ハーモニカの音色がとても新鮮に聞こえてきます。
裏メロを演奏したり、メロディを奏でたりと縦横無尽に活躍するその音色に、
いつの間にか私の顔に笑いがこみ上げてきました。嬉しくなったんですね、きっと。
 
 
11.ジョセフ・コズマ「枯葉」
 
ジャズ好きな私からすると、ビル・エヴァンスの演奏を想起してしまいますが、
もともと原曲はシャンソンですね。
ジョセフ・コズマが作った曲に、
当時作家として知られるジャック・プレヴェールが詩をつけたものです。
そんな豆知識はどうでもいいとは思うんですけど(笑)
 
コンサートの最後をジャズでしめる、というのは面白かったですね。
トランペットとピアノによるジャズ、それだけを見ると定番の組み合わせではあるんですけど、クラシック畑のお二人のジャズというのはまた新鮮でした。
ジャズ調の和音が響くたびに、私の心に音符が一つ飛び込んでくる感覚が味わえて、
とても幸せなフィナーレとなりました。
 
 
そして、アンコールです。
 
12.ショパン「12の練習曲 第12番 ハ短調
13.ショパン「12の練習曲 第3番 ホ長調
 
まずは真由さんの独奏2曲。
第12番。「革命のエチュード」と言われる有名な1曲。
そして第3番。「別れの曲」と言われるこちらも名曲です。
 
私自身、ショパンにはいい思い出があまりないんですよね。
ですが、真由さんの叙情的なショパンの演奏は素直に心にしみました。
よく知られた楽曲ではありますが、生の迫力は素晴らしかったですね。
 
 
14.葉加瀬太郎情熱大陸」(ピアノとトランペット編曲版)
 
ガチのクラシックによるプログラムで、
アンコール最後にこの曲を選ぶ、というのもらしいといえばらしいです(笑)
 
ピアフやコズマも厳密にはクラシックではないんでしょうけども、
やはりこの選曲センスは面白かったですね。
トランペットのメロディを、ラテンのリズムを奏でるピアノが支える形で、
客席の手拍子もあって、楽しいアンコールとなりました。
 
 
少し駆け足となってしまいましたが、
今回の演奏会の感想は以上となります。
 
真由さんと沙希さんのデュオ、
沙希さんといずみさんのデュオ、
真由さんの独奏、
そして3人でのトリオ演奏、
どれも大変素晴らしく、涙がこぼれそうになる瞬間もありました。
 
あまりお目にかかれない取り合わせの演奏会だったので、
とても貴重で、でも堅苦しくないものだったのが嬉しかったです。
 
 
演奏者3人の皆さん。会場スタッフの皆さん。
そして、演奏会の帰りに駅までご一緒してお話してくれた男性の方。
ありがとうございました。とても楽しかったです。
 

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