音楽つれづれ日記

音楽好き、飽き性、そして中庸思考。

映画「蜜蜂と遠雷」の感想(ネタバレあり)

さっき観てきました、「蜜蜂と遠雷」。

原作も単行本と文庫本で二回読みましたし、

キャストもなかなか面白そうで楽しみにしていました。

本当は公開初日に行きたかったんですけど、

仕事の関係でどうしても公開当日は無理だったので、

翌日、つまり今日の仕事帰りに品川の映画館で見てきました。

お客さんの入りはたぶん1割もいなかったと思います。

公開翌日でこの客数というのは少し不安ではありましたが、

夜遅い時間帯だったせいだと納得して、いざ館内へ。

 

 

恩田陸さん原作の「蜜蜂と遠雷」。

この作品で恩田さんは直木賞を射止めました。

単行本でおよそ700ページ弱、文庫本は上下巻で発売されました。

つまりはかなり長い作品です。

3年ごとに開催される、芳ヶ江国際ピアノコンクールを舞台に、

4人のコンテスタント(コンクール挑戦者)にスポットを当てて、

一次予選から本選(決勝戦)までを丹念に描いた作品です。

それぞれのコンテスタントの裏面の事情であったり、

コンテスタント同士の関わり合いだったり、

コンクールの審査員の思惑だったり、いろいろな思いが錯綜し、

それでもコンクールは進んでいきます。

果たして誰がコンクールで一位を獲るのか、

という結果もそうですけど、

それぞれの人間の成長もうかがうことができるとてもいい作品です。

 

ぜひ原作を読んでください。

個人差があるので「絶対損はさせません」とは言えないのですが、

読んでいてクラシック音楽が頭の中で鳴り響くことうけあいです。

(まあ、これも個人差ありますけど・・・(笑)

 

 

 

というわけで、ここからネタバレありになります。

映画をまだ見ていない方、

原作を読んでいない方はここから先はご遠慮ください。

種明かしや結末を見てから小説を読む人も中にはいらっしゃるみたいですけど、

そういう方は全体からみると少数派である、という認識なので、

多数派に属されていると自覚のある人はここから先はご遠慮ください。

どうせ原作も読まないし映画も見ない、という人も、

出来れば見ないでいただけるとありがたいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ここからは映画のストーリーメインでお話を進めます。原作との差異も多くあるのですが、そこは目をつぶっていただけると幸いです)

 

 

 

 

映画版は4人のコンテスタントの一人である、

栄伝亜夜(えいでんあや)を主軸としたお話になっています。

20歳の彼女は、7年前にピアノ協奏曲の演奏中に舞台から逃げ出します。

直前での母親の死が大きくかかわってきます。

そのあとずっと表舞台から消えた彼女でしたが、

いろいろな事情を経て、再び表舞台へと戻ってきます。

それがこの芳ヶ江国際ピアノコンクールでした。

 

そのいろいろな事情というのは映画ではほとんど語られませんでした。

母親の死がトラウマとなっているという設定は何となくわかりますが、

意味不明な馬の映像などを見せられて、頭の中は少し混乱してました。

 

近所に住んでいたマー君と偶然コンテスタント同士で出会うわけですが、

それも映画ではかなり唐突でした。

マー君こと、マサル・カルロス・レヴィ・アナトールですが、

なんでこんな名前なのか一切説明がありません。

設定は日系ペルー人の母とフランス人の父親を持つという感じですが、

主役ではないのでそのあたりはかなりぼかしてました。

少年時代に一時日本に在住しており、そのころに亜夜と出会い、

ピアノの手ほどきを受けていた、というのは出てきました。

 

物語のキーマンである、もう一人のコンテスタント、風間塵くんですが、

映画では新人の役者さんが演じられていました。

とても初々しくて演技も良かった気がします。

亜夜と塵とのピアノ工房での連弾のシーンは好きでした。

ドビュッシーの「月の光」やベートーヴェンの「月光」などを、

2人で即興で演奏するというシーンですが、

月の光を浴びながら連弾するというのはなかなかに幻想的です。

 

4人目のコンテスタント、高島明石は30歳を目前にして、

コンクール出場資格ギリギリの年齢で出場、

家族を抱えながらも、最後の機会ということで出場を決意します。

松坂桃李さんが演じられたんですが、この明石がとてもよかったです。

友人の記者をブルゾンちえみさんが演じられてたのは驚きましたが、

気さくに明石に話しかけるところや心配している様子など、

とてもよい演技をされていたように思います。

 

 

2時間という映画枠にこの長大な物語を詰め込むためには、

4人いる主人公から一人を抜粋し、スポットを当てるしかなかったのはわかります。

原作通りに映像化すると、どう考えても2時間では足りません。

なので、栄伝亜夜を主役にして物語を構築したのは納得です。

「映画は映画、原作とは違うもの」と納得してみれば悪くはないんです。

意味不明な映像が最初と最後のほうで出てきますが、それも目をつむります。

 

ただ、コンクール第3次予選を丸々カットしたのはいただけません。

カットしたぶん本選に出場した、マサル、塵、亜夜の演奏シーンがたっぷりとれて、

プロコフィエフバルトークの協奏曲を堪能できたのは嬉しかったですけど(笑)

 

あ、そうそう、原作では、

マサルプロコフィエフのピアノ協奏曲第3番を、

亜夜は、同じくプロコフィエフピアノ協奏曲第2番を演奏するんですが、

映画版ではそれがそっくり逆になっていました。

マサルが第2番、亜夜が第3番を演奏することになるわけです。

亜夜が主役で、最後に演奏することになるので、

少し地味な印象もある第2番より、

少し華やかな印象の第3番にした理由もわかりますが、

個人的には亜夜の演奏する第2番を聞いてみたかった気もします。

 

栄伝亜夜のピアノ演奏を担当されたのは河村尚子さん。

海外を拠点に活躍されているピアニストのおひとりで、私も大好きなんです。

なので、ピアノ演奏は本当に素晴らしかったと思います。

 

第2次予選で演奏された「春と修羅」。

コンクールのために菱沼忠明が作曲したという設定のものですが、

この映画のために、現代音楽作曲家の藤倉大さんが作られたんです。

これがまあすごくよかった。好みです。

そしてカデンツァ(即興演奏、自由演奏部分)もすべて藤倉さんが作曲されたみたいですが、こちらもとてもよかったです。

第3次予選を丸々カットしたおかげで、

この「春と修羅」は4人分の演奏を堪能することができたのは嬉しかったです。

カットは納得できなかったですけど・・・

 

あと、コンクールのステージマネージャー田久保さんがよかった。

原作でもかなり美味しい役どころではありましたが、

映画でもとても良い印象です。原作ほど活躍はされませんでしたけど(笑)

 

 

 

映画は映画。わかります。

全てを詰め込もうとしてダイジェスト風になってしまうよりは、

こういう作り方のほうが良いというのも理解はしています。

なので、及第点ギリギリでありますが「良かった」としておきます。

 

クラシック音楽をあまり知らない人でも、

最後の30分ほどは本選を堪能できるくらいの時間があるので、

これを機にプロコフィエフ聞いてみようかしら、と思うかもしれません。

思わないかもしれませんけど(笑)

 

たくさん演奏が聞けるので、あっという間に終わった感じがしました。

そういう意味では成功なのかもしれませんね。