音楽つれづれ日記

音楽好き、飽き性、そして中庸思考。

ふやすとへらす

ちょくちょくこういう質問をされることがあります。

 

「ピアノの曲をオーケストラ用に編曲するのと、

オーケストラの曲をピアノ用に編曲するのとでは、どちらが大変ですか?」

 

どっちも大変です、といつも答えているんですけど、

じゃ、具体的にどういうところが大変なのかというお話です。

 

ピアノを演奏する場合、2本の手、つまりは10本の指で演奏をされます。

トーンクラスタ(指示された音から音すべてを演奏する)で、

手のひらや肘、あるいは腕全体を使って音色を奏でる、

といった特殊な事例もあるにはありますが、

基本的には10本の指を使って音が奏でられることになります。

メロディ、副旋律、伴奏といった役割を与えられた音色を、

2手で演奏するわけですから、いろいろと工夫が必要になります。

ピアノの鍵盤数は標準的なものだと88鍵ですから、

オーケストラで使われている楽器のほぼすべての音色をカバーできます。

カバーできるからこそ、大変なんですけど・・・

 

 

余談ですけど、私自身はアレンジャーという肩書を持ってはいますが、

オーケストラの編曲というのは少し苦手なんですよ。

謡曲やポップスなどの「歌もの」と言われる分野が多かったせいでしょうけど。

ストリングスアレンジとかブラスアレンジとかは、

歌ものでちょくちょくやってはいましたが、

あれだけ多くの楽器のスコアを書くというのはそれだけ労力もかかります。

歌もののアレンジというのは作曲家(あるいは作詞家)やプロデューサーの意向をくんで行うものなので、信頼関係も重要です。

ある程度自由にさせてもらえることも多いですけど、

製作側からの要望というものもあるので、そこはシビアになるんです。

 

音を増やしたり減らしたり、あるいは楽器を変えたりというのはザラでしたし、

そうした要望に応えられないようでは、あそこではやっていけません。

私の場合、やっていけなかったからプロから離脱したんですけど・・・(笑)

 

 

オーケストラの曲をピアノに編曲する。

名手と言われているのは、フランツ・リストですね。

著名なオケ曲をピアノ用に編曲するのが上手い作曲家です。

 


Glenn Gould - Liszt Transcription of Beethoven's Symphony 6 Pastoral

 

ベートーヴェン交響曲第6番「田園」をリストがピアノ用に編曲したものです。

グールドを選ぶあたりが私らしいといえばらしいですけど。

音色の取捨選択の絶妙さがリストっぽいと私などは思ってしまうんですが、

かの曲が持っているエッセンスを上手に昇華している感じがします。

当時は音色を保存する方法がまだなかった時代ですから、

楽譜などを出版してそこから曲を推考することも多かったわけです。

だから、リストのようにピアノ用に編曲されたものがあれば、

ピアノでその曲の雰囲気を感じ取ることが出来たんじゃないかな、と、

勝手に妄想してしまうんですが、実際に見てきたわけじゃないので何とも言えません。

 

 

劇伴でも、メインテーマと呼ばれるものが作られて、

そのテーマアレンジとしてピアノに編曲されるものがちょくちょく出てきます。

にわとりが先かタマゴが先か、ではないですけど、

こういうテーマを作るときってどっちから先に作ってるんでしょうね。

私は劇伴製作の経験があまり無い人なのでそのあたりの機微はわかりませんけど。

(作曲はほとんどやってなくて、編曲ばっかりでしたから)

 

 

ピアノ曲をオーケストラにアレンジする、と聞くと、

クラシック音楽に詳しい人なら「展覧会の絵」を思い浮かべる人が多いでしょう。

ロシアの作曲家ムソルグスキーピアノ曲であった「展覧会の絵」を、

管弦楽の魔術師とも称されたラヴェルがオーケストラ用に編曲した、

というお話は、中学や高校の音楽の授業で知った方も多いかと思います。

ラヴェルは、自分の作品でも、

ピアノ曲だったものをオーケストラ用に編曲しています。

クープランの墓」「ラ・ヴァルス」「マ・メール・ロワ」あたりが有名ですね。

 


Ravel - Le Tombeau de Couperin - François 1958

 


Ravel - Le Tombeau de Couperin, orchestration complète

 

サンソン・フランソワを選ぶあたりが私らしいですけども(笑)

ラヴェルのピアノ弾きといえば、

私の中ではサンソン・フランソワあるいはマルグリット・ロンです。

(ちなみに、サンソン・フランソワはマルグリットの弟子の一人です)

他の演奏も大好きなものはあるんですけど。

 

クープランの墓の第1曲「プレリュード(前奏曲)」の出だしを聞くと、

ピアノ版の柔らかな出だしが、オーケストラでは木管が担当していて、

ああ、ラヴェルってすげーな、と当時学生だった私は思ったものでした。

 

ピアノ曲をオーケストラ用へ編曲する場合、

要するに音色を増やすという作業となるわけですが、

そこはもう編曲家のセンス如何によるものだと考えます。

硬質な響きを取るのか、柔和な音色を使うのか、

そうした選択は編曲家の采配でいかようにも変わってきます。

100人の編曲家がいればその音色は100通りです。

 

もちろん原曲のあるものなので、

ピアノ曲を聞きまくっている人からすると気に入らない編曲もあったでしょう。

当時のラヴェルがどのような評価を受けていたのかは定かではないですけど(笑)

 

私がオケ編曲をする場合、

だいたいは頭の中でこねくり回して完成させることが多いので、

五線紙に向かって「うーん、うーん」となることはあまり無いんですが、

それでも音色の選択は気をつかいます。

楽器により演奏できる音色は決まっていますし、

難しいメロディの場合は奏者が演奏しやすいようにメロディを変えることもあります。

ポップスのオケ編曲とかで微妙に原曲と違うときがあると思いますけど、

そういうのがある場合は理由の一つはそれです。

(もちろんそれ以外にも理由はありますけど長くなるので割愛します)

 

原曲好きからするとそうした微妙な「メロディの改変」を嫌うこともしばしばです。

特にサブカル界隈の方々は「原曲至上主義」な方も多いですし。

編曲する側からすると、そこは大目に見てほしいと思う部分でもあります(笑)

 

なんだか取り留めのないぶろぐになっちゃいましたね。

何にも考えないで書くと、だいたいこういう感じです・・・