ヒロユキの音楽日記

ありとあらゆる音楽が好きな人。たまにキツい毒をはいたりしますが根はいい奴です。

サー・アンドラーシュ・シフ ピアノリサイタル(3/21@初台)

初めて彼の演奏を聴いたのは3年前、2014年のことです。

 

サントリーホールでのベートーヴェンピアノ曲3曲演奏。

前半のピアノソナタ32番c-mollや6つのバガテルももちろん素晴らしかったですが、

後半に演奏された大曲「ディアベリの主題による33の変奏曲」は、

1時間ほどの長い曲にも関わらず時間を感じさせない、まさに至高の演奏でした。

そしてその演奏後のアンコールで、

バッハのゴルドベルク変奏曲のアリア、

そしてベートーヴェンピアノソナタ30番を全曲演奏したんですよね。

アンコールの長さに定評があるという噂は知っていたのですが、

まさかここまで演奏してくれるとは、という思いが心を満たし、

号泣したのを今事のように思い出します。

 

類まれなるピアニスト、サー・アンドラーシュ・シフ

3年前に感動した演奏の記憶もそのままに、

久しぶりにシフの名演奏に触れることができました。

 

 

(3/21 演目)

モーツァルト:ピアノ・ソナタ第17(16)番 変ロ長調 K.570
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第31番 変イ長調 op.110
ハイドン:ピアノ・ソナタ ニ長調 Hob. XVI:51
シューベルト:ピアノ・ソナタ第20番 イ長調 D959
※休憩なし

 

Last Sonatasと題された公演なのですが、

作曲家が最後に書いたピアノソナタを演奏する、という主旨です。

私が参加した昨日の公演は「最後からひとつ前の作品」群。

後日同会場にて行われる公演は「最後の作品」群。

両方行きたかったのですが、諸般の事情で行けませんでした・・・

ただ、私が好きなベートーヴェンピアノソナタ第31番を聴ければいいや、

という軽いノリで当日参加したことは秘密です(笑)。

 

シフの演奏って一言で言うと「耽美」ということになるんでしょうか。

ここに入る言葉は個人個人で違うとは思うんですけど。

一流のピアニストであることは間違いないわけですが、

技巧的というよりも抑制した情熱みたいなものを私は感じたんですよ。

奏法から感じる旋律の美しさとその情熱が絡まって、耽美という言葉に行き着いた、

というまどろっこしい話はおいといて。

 

 

最初に演奏されたモーツァルトソナタから心がきゅんとしてました。

晩年のモーツァルトの作品というのは、

全盛期と比べて派手さが控えめで、清澄な響きに溢れたものが多い印象です。

このK570もその傾向が強い作品です。

楽譜通り演奏しただけではその魅力を伝えることができない難曲でもあります。

そのあたりの心配はシフの演奏では微塵も感じないんですけどね。

安心してモーツァルトの世界に耽溺することができました。

 

モーツァルトソナタ演奏後に観客から大きな拍手がおこり、

シフが立って一礼した後、通常であれば一度舞台袖にはけるところなのですが、

彼はそのまま椅子に座り直し、おもむろに次のプログラムを演奏し始めました。

 

2曲めはベートーヴェンピアノソナタ第31番。

私が思い入れのあるベートーヴェン楽曲のひとつでもあります。

全てが聴きどころではあるのですが、

私が「無類のフーガ好き」ということもあり、

やはり最終楽章のフーガで泣きまくってました(笑)。

最終楽章の「嘆きの歌」と言われる短調の切ないメロディから、

As-durのフーガへと切り替わる瞬間が鳥肌ものでした。

フーガの盛り上がりが一段落して再び嘆きの歌が登場した後、

先程のフーガの主題が反行(旋律が上下反転している)であらわれ、

そのまま怒涛のフィナーレへと向かうわけですが、

その切り替わりの刹那の美しさが得も言われぬものがありました。

心が浄化されていくのを感じたんですけど、私の気のせいではないと思います。

 

そして例によって万雷の拍手のあと、やはりおもむろに椅子に座り直し、

そのままハイドンピアノソナタを演奏し始めます。

 

ソナタ61番として知られているこの曲ですが、たいへん短い曲です。

2楽章構成で7分もかかりません。

しかし、そんな小品でも魅力的に聞こえてくるから不思議です。

軽やかな音色なのに荘厳に聞こえてくるハイドンの調べが終りを迎えます。

すると。そこからアタッカでシューベルトを彼は弾き始めました。

観客は拍手をする暇さえ与えられず(笑)。

 

そしてこのシューベルトがすごかった。

何がどうすごいのかと聞かれると「すごいもんはすごい」と言わざるを得ません。

このシューベルトの20番のソナタ、好きなんですよね。

晩年の3つのソナタ(19番~21番)って一括りにされることが多いんですが、

それぞれが個性のある良い作品だな、と私は思ってるんですね。

そのシューベルトの個性あふれる作品と、

シフの演奏との相性が抜群に良かった印象です。

特にフィナーレの歌うような旋律を際立たせた素晴らしい演奏は、

私の涙腺を大いに刺激するものでありました。

 

そしてブラボーとともに圧倒的な音量の拍手が爆発的に起こりました。

 

4曲をほぼノンストップで演奏、たぶん一時間半ほどだと思いますが、

それだけのことをしたわけで、私も「アンコール無いよなあ」と思ってたんですが、

以前の演奏会でソナタ1曲まるまるやってくれた彼のことですから、

淡いながらも期待して拍手をしながらアンコールを待ちます。

 

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これが3/21(火)のアンコールです(笑)。

驚きますよね、これ。

あれだけ緊張感と集中力を保った演奏をしたあとでこれですから。

 

 

余談になりますが、実は開演前にアンコールの話を、

一緒に行った友人としていたんですよ。

今回はウィーン楽派中心の楽曲でしたから、

バッハなどのバロックを聴けるとは到底思ってませんでした。

なので私も冗談で、

「アンコールでフランス組曲とかイタリア協奏曲とかやってくれないかなあ」

と言ってたんです。

そしてシューベルトの小品に続いて演奏されたイタリア協奏曲に、

二人して驚き、そして興奮してしまいました(笑)。

イタリア協奏曲、素晴らしかったです。

あれだけの演奏をした後で疲労をほとんど見せること無く、

完璧なバッハを演奏してのけるわけですから、ほんとすごいの一言です。

最初は一楽章のみ演奏して一度ピアノから離れたんですが、

そこから観客の盛大な拍手に導かれるように続けて二楽章と三楽章を演奏して、

私のハートは彼に射抜かれました(笑)。

モーツァルトの有名なソナタK545も一楽章のみでしたが堪能できましたし、

シューベルトの楽興の時も聴きたいと思っていた作品だったので、

これでもう満足、満腹状態だったわけですが、

シフは拍手に押されるようにまたピアノへと向かいます。

あれ?まだアンコールやってくれるのかしら?と思った次の瞬間、

彼は鍵盤のフタをそっと閉じたのでした。

そしてかすかな笑いとともに万雷の拍手に送られてシフは舞台袖へ。

彼のおちゃめな一面を見ることができた瞬間でした。

 

いろいろと言いたいことも多少あることはあったんですが、

そんな感情も公演が終わると同時に霧散していました。

やはり彼の演奏は動画やCDでも良いんですけど、生演奏に勝るもの無しです。

 

しばらくはサー・アンドラーシュ・シフの演奏を聴き続ける日が続きそうです。